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一発の返事で、方程式を解く ── グリーン関数

2026.06.14

前回、解きたい式 ∇²φ=−ρ がはっきりした。解き方は、連載をずっと貫いてきた一手そのもの ── 一点の源への“一発の返事”さえ覚えれば、どんな源分布も、その返事を置いて足すだけで解ける。その返事に、とうとう名前をつける ── グリーン関数。④で足し続けた 1/r の、正体。

▶ 緩和ラボ(源1つの返事=グリーン関数)を開く

前回、解きたい式の形がはっきりした ── ポアソン方程式 2ϕ=ρ\nabla^2\phi=-\rho。源 ρ\rho を入れると、ポテンシャルの地形 ϕ\phi がどう曲がるかを決める式だ。

でも、「式が立った」と「解けた」は別だよね。源がぐにゃぐにゃに広がっていたら、この式をどう解けばいいんだろう? ── 心配いらない。解き方は、もう連載をずっと歩いてきた、あの一手そのものなんだ。

一点だけ、突いてみる

複雑な源を前に、いきなり全部を相手にするのはしんどい。そこで、いつもの作戦 ── いちばん簡単な「一点」だけ で考える。

源が、空間のたった一点に、ちょこんと置かれた“点源”だったとする。そのとき、ポテンシャルの地形はどうなるか? ── これはもう知っている。④で見た、あの 1/r1/r のすり鉢 だ。一点の源は、まわりに 1/r1/r の丘(または井戸)を一つ作る。

この「一点を突いたときの、たった一発の返事」さえ分かっていれば ── あとは、ずっとやってきたこと。源を、たくさんの点の集まりだと思って、各点の返事を足す。 それだけで、どんな源分布の答えも組み上がる。

グリーン関数 ── 名前をつける

ここまで「一発の返事」「点源の返事」と呼んできたもの。連載のいちばん最初から、ずっと足し続けてきた相棒。── そろそろ、名前を呼んでいい。

グリーン関数 GG という。「一点をどんと突いたら、まわりにどんな返事が返ってくるか」を表す関数だ。式で書くと、方程式の右辺を“一点だけの源”(数学では δ\delta と書く、無限に尖った一点の山)にしたとき、

2G=δ\nabla^2 G = -\delta

を満たすもの。読めなくても大丈夫 ── これは 「一点を突いたときの、ポテンシャルの返事」 と言っているだけ。δ\delta は「一点だけの源」── 幅を限りなく細くした源で、高さは無限に尖って見えるけれど、全体として入っている量は 1 にしてある(一点に源を 1 個だけ置いた、と思えばいい)。GG はそれへの返事。ラプラシアン(地形の曲がり)に対するこの返事が、3次元では、ちょうど

G1rG \propto \frac{1}{r}

になる。── そう、④でずっと足してきた 1/r1/r は、ポアソン方程式のグリーン関数だったんだ。名前を知らずに、もう何回も使っていた。

ひとつ手すりを。ここで G1/rG\propto 1/r と書いているのは、3次元の自由空間 でのポアソン方程式の返事だ。緩和ラボは見やすさのために2次元の地形として描いているので、厳密な2次元自由空間の返事(実は logr\log r 型になる)とは、少し形が違う。でも、いま掴みたい骨は同じ ── 「一点を突くと返事が返る。その返事を、源の分だけ置いて足す」。形の細部は、ここでは気にしなくていいよ。

どんな源も、G を置いて足すだけ

グリーン関数が分かれば、解くのは“足し算”だ。源 ρ\rho を、たくさんの点に分けて、各点の上にグリーン関数 GG を、その点の源の強さ倍して置いて、全部足す:

ϕ(P)=G(P,P)ρ(P)dV\phi(P) = \int G(P, P')\,\rho(P')\,dV'

読み飛ばしても大丈夫。この式が言っているのは、「源のかけらひとつひとつに、グリーン関数の返事を置いて、全部足す」 ── それだけ。G(P,P)G(P,P') は「PP' にある源が、PP に届ける返事」、ρ(P)\rho(P') はそのかけらの源の強さ、dVdV' は「源の小さなかけら」(2次元のラボなら小さな面積、3次元なら小さな体積)。── これ、見覚えがあるよね。④で書いた ϕ(P)=ρ/r\phi(P)=\int \rho/r と、まったく同じ式 なんだ。④の「中から積む扉」は、知らないうちに、もうグリーン関数で解いていた。

① 一点を突くと(δ)、一発の返事が返る(グリーン関数 G = 1/r) δ 返事 G ② 源の分布も、各点に G を置いて足すだけ = 場 φ 源 ρ Σ G·ρ φ
グリーン関数 G =「一点 δ を突いたときの、一発の返事(=1/r)」。どんな源分布 ρ も、各点に G を置いて、源の強さ倍して足すだけで、場 φ になる。④でやった ∫ρ/r は、この“G を足す”だった。

あの「一個の丘」が、グリーン関数

これ、実はもう手で触っている。緩和ラボ で、源を 1つだけ 置いたとき、まわりに立ち上がった、あの一個の丘(または井戸)── あれが、グリーン関数 GG そのもの だ。一点の源への、ポテンシャルの返事。(符号も一言。電場の符号で見れば、正の源は丘・負の源は井戸。重力の符号なら、ふつうの質量は井戸を作る。符号は違っても、「一点への返事を足す」という骨は同じだよ。)

そして、源を2つ3つと増やしたとき、地形がそれぞれの丘の足し算になっていったよね。あれが Gρ\int G\rho源と場のラボ1/r1/r のすり鉢を足したのも、同じこと。── つまり、この連載でずっと「触って」きたのは、最初からグリーン関数だった。今日は、その手触りに、名前を与えただけなんだ。

なぜ、これで解けるのか ── 連続版の“逆行列”

少しだけ、仕組みを覗いておく。2ϕ=ρ\nabla^2\phi=-\rho は、「ϕ\phi2\nabla^2 という操作をかけると ρ-\rho になる」という形。これは、行列とベクトルの Ax=bA\vec{x}=\vec{b} にそっくりだ。連立方程式なら、x=A1b\vec{x}=A^{-1}\vec{b} ── 逆行列 をかければ解ける。

グリーン関数 GG は、ちょうどこの A1A^{-1} にあたる。2\nabla^2 という操作を“ほどく”手順を、一点ごとの返事として全部書き留めたもの。だから、源 ρ\rhoGG をかけて足す(積分する)と、ϕ\phi が出てくる。読まなくてもいいけれど、グリーン関数は、微分方程式の“逆行列” ── そう思うと、なぜ足し算で解けるのかが、すっと腑に落ちると思う。

同じ式でも、枠で返事が変わる

最後に、ひとつ手すりを。グリーン関数は、境界条件で変わる。何もない広い空間に置いた一点の源の返事(自由空間の 1/r1/r)と、接地した箱の中に置いた一点の源の返事とでは、GG の形が違う。前回 の「方程式は局所のルールを言うだけ、どの地形を選ぶかは枠が決める」が、ここにも効いている ── 同じ「一点を突く」でも、まわりの枠が違えば、返ってくる返事が変わるんだ。

自由空間で突く δ G 箱の中(接地=枠で 0)で突く δ G
同じ一点を突いても、枠が違えば返事 G は変わる。自由空間ではゆるく広がり、接地した箱の中では枠でぴたりと 0 に戻る。方程式の局所ルール(各点はまわりの平均+源)だけでなく、境界条件が答えを選ぶ。

名づけ終えて

ここで、連載の背骨が、ひとつの言葉に畳まれる。

で「一発の返事(インパルス応答)さえ覚えれば、どんな入力も足し算で出る」を掴んだ。 で「源の返事を、源の数だけ足す」を見た。そして今日、その「一発の返事」に名前がついた ── グリーン関数。複雑な世界を解く手は、ずっと一つだった。一発の返事を覚えて、置いて、足す。 それだけ。

でも、ここまでは全部、時間の止まった、静かな場 の話だった。源はじっとしていて、返事は“いつでもそこにある”ものとして足してきた。── では、源が時間とともに動いたら? 波のように、返事が 遅れて 届く世界では、この「足す」はどうなるんだろう。

次回、最後に、時間を入れる。