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源を足して、場を作る ── 一発の返事から、場の全体へ

2026.06.14

源をひとつ置くと、まわりに 1/r² の場ができる(前回)。源を増やすと、その場はただ足し算される(前々回)。向きを足すのはしんどいので、向きのないポテンシャル ── 1/r のすり鉢 ── を足して、場をその坂として取り出す。点源を連ねて場をつくる手の、奥にある二つの見方。

▶ 源を置いて、場を足すラボを全画面で開く

ここまでで、二つの素朴な手が揃った。重ね合わせ では「一発の返事さえ覚えれば、複雑な入力も、その返事を足すだけで作れる」を掴んだ。1/r² では「源ひとつが作る場は 1/r² で薄まり、それを囲むフラックスは途切れない」を見た。

今日は、この二つが出会う。源がひとつのときの“返事”は分かった ── じゃあ、源が いくつもあったら、まわりの場はどうなるんだろう? 答えはもう、半分は手の中にある。覚えた返事を、源の数だけ足せばいい。でも、いざ足そうとすると、ひとつ小さな壁にぶつかる。そこを越えると、場というものの見え方が、ぐっと素直になるよ。

源を、もうひとつ置く

源をひとつ置くと、まわりに放射状の場ができる ── 前回 で見た、1/r21/r^2 で薄まる場だ。

ここからは、重力でも電場でも 同じ形 で読めるように、ただ『源』と呼ぶことにする。ただ、絵にするなら正と負を置ける 電場のほうが分かりやすい ので、図ではそちらを借りるよ。重力なら、源(質量)はいつも正で、場はまわりの物を質量へ引き寄せる向き。電場なら、正の源からは場が湧き出し、負の源へは吸い込まれる。向きの出方は少し違うけれど、各源が作る場をベクトルとして足す という骨は、まったく同じだ。さて ── 源をもうひとつ置いたら?

各点での場は、ただ 2つの場のベクトルの足し算 になる。

g(P)=g1(P)+g2(P)\vec{g}(P) = \vec{g}_1(P) + \vec{g}_2(P)

PP に立って、源1が作る場と、源2が作る場を、矢印として足す ── それだけ。源どうしは互いの存在を気にせず、それぞれが自分の 1/r21/r^2 の返事を撒き、観測点でその矢印が合算される。これは 前々回の「独立」(同時に源があっても、片方の返事はもう片方を気にしない)が、そのまま場に効いている姿だよ。── ここでは、源の位置が固定された、静かな線形の場 として見ている。源が動いたり、媒質がそれに応じて変わったりする話は、いったん脇に置いておく。

下のラボで、順に触ってみてほしい。まず源を1つだけ 置いて、「場(坂の向き)」ビューで、矢印が四方へどう広がるかを見る。次に同じ符号を2つ 置いて、真ん中で矢印がどう足し合わさるか(押し合って外へ広がる)を見る。最後に +と− を置くと(双極子)、+から湧き出した矢印が−へ吸い込まれ、横では 打ち消し合う場所と強め合う場所 ができる。式を一行も追わなくても、この3つを触れば「場は、源の返事の足し算でできている」が、目で分かると思う。

向きを足すのは、しんどい

ここで、さっき言った小さな壁が来る。場はベクトル ── 大きさだけでなく 向き を持つ。源が2つ3つならまだいい。でも源が100個、あるいは連続的に広がっていたら? 各点で、100本の矢印を向きごと分解して足し直す ── 考えただけで、うんざりするね。

そこで、もっと素直な足し算はないか、と問いたくなる。じつは 前回の終わり で、その逃げ道を一度だけ口にしていた ── 「ポテンシャルで見るなら、まず足すのは向きのない 1/r1/r のほうだ」。これを、いま使う。

ポテンシャル ── 1/r のすり鉢を、足す

向きを持った場のかわりに、各点に ひとつの数 を割り当てる。源からの距離 rr に対して 1/r1/r(重力なら符号をつけて Gm/r-Gm/r)で決まる、向きのない量。これを ポテンシャル ϕ\phi という。

ϕ(P)=iqiri(源 i から P までが ri)\phi(P) = \sum_i \frac{q_i}{r_i}\qquad(\text{源 } i \text{ から } P \text{ までが } r_i)

ポテンシャルは数だから、足し算はただの 足し算 だ。向きを分解する手間がいらない。源ひとつは、まわりに 1/r1/r 型の 地形 を作る ── 重力なら Gm/r-Gm/r井戸、電場なら、正の電荷は 、負の電荷は 井戸。符号で山か井戸かは変わるけれど、1/r1/r の形を足して地形を作り、最後に坂を測る、という手順は同じだよ。源を増やすと、その地形が そのまま重なって足される ── でこぼこの地形ができていく。

そして場は、その地形の として取り出せる。正の試験粒子をそっと置くと思えば、粒子はポテンシャルが下がる向きに押される(符号を変えれば、山と井戸も、押される向きも反転する)。その向きと急さが、場そのものだ。きちんと言えば、場はポテンシャルの傾き(勾配)の逆向き、g=ϕ\vec{g} = -\nabla\phi と書く。(ϕ\nabla\phi は「地形のいちばん急な上り坂の向き」を指す記号、頭のマイナスはその逆=下り坂のこと。記号が苦手なら、「場 = 地形の坂」 とだけ持っておけば、この先も困らないよ。)「数を足してから、最後に一度だけ坂を測る」── これが、矢印を一本ずつ足すより、ずっと楽な道なんだ。

ここで、前回と今回の“数字”の関係も見えてくる。1/r1/r の地形の「坂の急さ」を測ると、ちょうど 1/r21/r^2 になる んだ。つまり、ポテンシャルが 1/r1/r、その坂である場が 1/r21/r^2 ── 前回の 1/r21/r^2(場)と今回の 1/r1/r(ポテンシャル)は、坂と高さの関係でつながっていた、ということ。

φ 距離 r 高さ = ポテンシャル φ ∝ 1/r r 2r 坂:急 坂:ゆるい(¼) 坂の急さ = 場 ∝ 1/r²
ポテンシャルの「高さ」は 1/r で下がる。その地形の「坂の急さ」を測ると 1/r² ── 距離が2倍なら坂は¼だ。だから、ポテンシャルは 1/r、場(坂)は 1/r² という組になる。前回の 1/r² と今回の 1/r は、坂と高さの関係でつながっていたんだね。

ラボを「ポテンシャル地形」ビューにすると、この地形が見える。同符号の源を2つ置くと、すり鉢が融合してひょうたん型の等高線になる。等高線が混んでいる所ほど坂が急 = 場が強い。源を足すだけで、入り組んだ地形がいくらでも作れる のが分かると思う。

ひとつ、なぜ楽な道が許されるのかを、軽く手すりとして。場の足し算(g1+g2\vec{g}_1+\vec{g}_2)と、ポテンシャルの足し算(ϕ1+ϕ2\phi_1+\phi_2)が食い違わないのは、「坂を測る」操作(勾配)が線形だからだ。先に ϕ\phi を足してから坂を測っても、先に坂を測ってから足しても、同じ場所には同じ矢印が立つ。だから安心して、楽なほう(数を足す)から進める。

▶ 地形と坂を、両方の見方で触る ↗ ▶ 3D地形を回して見る ↗

源を、たくさん ── 和が積分になる

源が、とびとびの点ではなく、空間に 塗り広げられて いたら ── 質量や電荷が、もやのように連続に分布していたら ── どうなるんだろう?

考え方は、これまでと地続きだ。源が1個なら、その返事を1つ見る。2個なら、2つの返事を足す。100個なら、100個の返事を足す。源が連続に広がっているなら、空間を 細かなかけらに刻んで、各かけらを「ちいさな点源」だと思って、全部足す。その“ものすごく細かい足し算”を、数学では 積分 と書く。それだけのことだよ。

かけらひとつを見てみよう。ある場所 r\vec{r}' にあるかけらの源の強さは、「その場所にどれだけ源が詰まっているか(密度 ρ\rho)」×「かけらの小ささ(体積 dVdV')」。そのかけらが、いま知りたい場所 PP に届ける返事は、覚えた 1/r1/r をその強さ倍したもの ── ここで rr は、かけらから PP までの距離 Pr|\vec{P}-\vec{r}'| だ。あとは、かけらの分だけ全部足す。式で書くと、こうなる:

ϕ(P)=ρ(r)PrdV\phi(P) = \int \frac{\rho(\vec{r}')}{|\vec{P}-\vec{r}'|}\,dV'

読めなくても大丈夫。この式が言っているのは、「源のかけらを、全部足す」 という一文に尽きる。\displaystyle\int は、その足し算をものすごく細かくしただけの印。分子の ρ(r)dV\rho(\vec{r}')\,dV' が「かけらひとつの源の強さ」、1/Pr1/|\vec{P}-\vec{r}'| が「そのかけらが PP に届ける 1/r1/r の返事」── 強さ × 返事を、空間ぜんぶで足し集めている、それだけだ(GG1/4πε01/4\pi\varepsilon_0 といった比例係数は省いて、形だけを書いているよ)。

見覚えのある手だね。これは 畳み込み でやった「短冊の返事を足す → 刻みを 0 にして積分」と、球面の薄まり でやった「1/r1/r の返事」を、ひとつに重ねたものだ。一発の返事(1/r1/r)を覚えて、源の場所ごとに置いて、源の強さで重みづけて、全部足す。 今日いちばん大事な一文を選ぶなら、これになる。源の分布さえ分かれば、空間のどこの場でも、この足し算(積分)で出てしまう。

二つの扉

ここで、立ち止まりたい。いま私たちは、場を 中身から組み立てた ── 源を一つずつ数えて、その返事を足して。けれど 前回、まったく違う見方をしていたのを覚えてる? 源を囲む面を考えて、外から、貫くフラックスを数える だけで、中の源の総量が分かった。面の形にはよらず、囲んだ源で決まる、と。

つまり、同じ「場」に、二つの扉がある。

ひとつは、外から、まるごと。閉じた面を貫くフラックスを数えれば、中に何があるかの 総量 が分かる(gdA\oint \vec{g}\cdot d\vec{A} = 囲んだ源で決まる)。源の一個一個を知らなくても、総量だけは、外側からの“貫き”で押さえられる。

もうひとつは、中から、部品で。源を一つずつ拾って、その返事 1/r1/r を足し上げれば、場の 細かい形 まで分かる(さっきの積分)。

同じ ひとつの場 ── 二つの読み方 外から ── まるごと囲う 貫く総量 = 囲んだ源 ∮ の目(中身は知らなくていい) 中から ── 源ごとに足す 各源の返事 1/r を足す Σ・∫ の目(細かい形まで分かる)
同じひとつの場を、二つの扉から読める。左:閉じた面で囲って“貫く総量”だけを数えると、中の源の合計が分かる(中身の配置は知らなくていい)。右:源を一つずつ拾って、その返事 1/r を足し上げると、場の細かい形まで分かる。源が湧かず消えないから、この二つはきっちり一致する。

この二つは、矛盾じゃなくて、同じ事実の表と裏だ。源は湧きも消えもしない(保存)── だからこそ、外から数えた総量と、中の部品を足した結果が、きっちり合う。片方は「世界をまるごと囲んで帳尻を見る」目、もう片方は「中身を一粒ずつ積む」目。この連載でずっと追ってきた 足し合わせ(中から)と 湧かない・消えない(外から)が、場というひとつの対象の上で、ようやく握手する。

どちらの扉にも、物理ではちゃんと名前がついている。でも、今日はまだ呼ばないでおく。名前より先に、二つの見方が同じ場所を指している、その手応えのほうを持っておきたいんだ。

場は、源の台帳でできている

最後に、少しだけ遠くを見たい。

ここまでの話を一言にすると ── 場とは、源たちの“返事”の重ね合わせ だ。空間のどこに、どんな場が立っているか。それは、源の台帳(どこに、どれだけの源があるか)から、原理的には完全に決まってしまう。── 少なくとも、ここで見てきたような 静かな(時間で変わらない)場 では。場は、空っぽの空間が勝手に持っている飾りじゃなくて、源が書き込んだ帳簿の、読み出しなんだ。

そして、その帳簿が信用できるのは、源が 勝手に湧いたり消えたりしない からだった。もし源が気まぐれに増減したら、外から数えた総量も、中から積んだ和も、合わなくなる。足し算は閉じず、場は“一つのもの”として書き下せない。保存という地味な約束が、ここでも足場になっている ── 数えられるから、足せる。足せるから、場が決まる。

源をひとつ置いたときの、たった一発の返事。それを覚えて、置いて、足す。これだけのことの繰り返しで、重力の場も、静かな電場も、組み上がっていく。きれいだと思う。複雑な世界の見た目の裏に、「一発の返事を足す」という、拍子抜けするほど素朴な骨が一本通っている。── その骨をもう少し先までたどると、源と場をひと息で結ぶ式に行き着くのだけれど、それはまた、名前を呼ぶ覚悟ができたときに。