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場の湧き出しを数える ── 発散とガウスの法則

2026.06.14

前回は源を足して場を作った(中から)。今回は逆 ── 場を全部作らなくても、閉じた面を貫く“正味の出入り”を数えるだけで、中に源があるか分かる(外から)。フラックス・発散・ガウスの法則を、「場がどこで湧いているか」を測る道具として、触れる輪で掴む。

▶ フラックス・ラボを全画面で開く

ここから、連載は少しだけ抽象的になる。これまで手で掴んできた骨に、名前をつけていく回だ。難しくはしない ── 名前は、もう感じているものに貼るラベルのつもりだよ。

前回 は、源を一つずつ置いて、その返事を足して場を作った。中から組み立てる やり方だ。源の台帳さえあれば、空間のどこの場でも出せる。でも ④ の最後で、もう一つの扉をちらっと見た ── 外から、まるごと囲って数える ほう。今日はその扉を開ける。

場を全部作らなくても、閉じた面を通って“どれだけ外へ出ていくか”を数えるだけで、中に源があるかどうかが分かる。ちょっと不思議だよね。なんで外を見るだけで、中身が分かるんだろう? ── その種明かしをしていく。

外から見る ── フラックス

源のまわりに、ぐるりと 閉じた面(2次元なら閉じた輪)を一つ描く。そして、その面を場が どれだけ貫いて外へ出ていくか を数える。これを フラックス と呼ぶ(③でも一度顔を出した言葉だ)。

数える、と言っても難しくない。面のあちこちで、外向きに出ていく分を +、内向きに入ってくる分を − として、ぜんぶ足し合わせる ── それが 正味フラックス。直感はこうだ:

下のラボで、これを手で確かめてほしい。まず「源は中」 ── 輪の中に+の源を置くと、輪のふちが一面 “出ていく”(青)になって、正味フラックスが + になる。次に「源は外」 ── 源を輪の外へ出すと、源に近い側は場が入ってきて(赤)、反対側からは出ていく(青)。入る分と出る分がちょうど釣り合って、正味フラックスはゼロ になる。最後に「+と−」 ── 両方を輪の中に入れると、ふちは派手に色づくのに、正味はまたゼロ(+と−で中身の合計がゼロだから)。式を一行も追わなくても、この3つで「正味フラックスは、囲んだ中身で決まる」が見えてくるはずだ。

ひとつ、正直な話を。ラボの数字をよく見ると、源が外でも正味フラックスがきっかり 0 でなく ±0.1 くらい残っていたり、中でも 1 でなく 0.9 や 1.1 くらいになっていたりする。これは間違いじゃない ── 輪を“有限個の点”で足している、離散の誤差 だ。\oint はほんとうは連続なのに、とびとびの点で近似しているから、少しズレる。点を増やすほど、ちゃんと整数(囲んだ源)に収束する。 この「一点ずつ En\vec{E}\cdot\vec{n} を計算して、走る合計 Φ\Phi が囲んだ源に近づいていく」過程を、数字で一歩ずつ眺められる フラックス step ラボ を別に置いた。\oint が結局「ものすごく細かい足し算」だというのが、目と数字で腑に落ちると思う。

球で囲む

なぜ「外から数える」と中身が分かるのか。いちばん素直な場合 ── 点源を 球(2次元なら円) で囲んで、半径 rr を変えてみよう。

ここで ③ 1/r²は保存から がそのまま効く。半径を大きくすると、場は 1/r21/r^2 で弱くなる。でも、球の面積は r2r^2 で増える。弱くなる分と、広くなる分が、ちょうど打ち消し合う。 だから、球を貫く正味フラックスは、半径をどう変えても いつも同じ ── その値は、中の源の強さそのものだ。

ひとつ、絵について手すりを。さっきのラボは画面の都合で “2次元の輪” で見せているけれど、1/r21/r^2 と球の面積 4πr24\pi r^2 の帳尻を話すいまは、頭の中では 3次元の球面 を思い浮かべてほしい。もし世界がほんとうに2次元だけなら、広がる先は球面でなく “円周” だから、薄まり方は 1/r1/r になる(帳尻も変わる)。今は、音・光・重力・電場が広がる 現実の3次元 のほうを想像してね。

③で「貫く本数は、球をどんなに大きくしても一定」と言ったのは、これのことだった。場の“密度”は薄まるのに、面を貫く“総量”は変わらない。場が 1/r21/r^2 で薄まるのは、この帳尻が合うように、とも言える。

球でなくてもいい

ここで、ひとつ引っかかってほしい。── うまくいったのは、球だから だろうか?

そうじゃない。球は計算が楽なだけで、本質じゃない。閉じてさえいれば、面の形は何でもいい。 ぐにゃぐにゃに歪んだ袋でも、角ばった箱でもいい。

なぜか。外にある 源から来た場は、袋のどこかから入って、どこかから出ていく ── 通り抜けるだけだから、入った分と出た分が打ち消して、正味はゼロ。さっきラボで「源は外」にしたとき、正味がゼロになったのは、これだ。いっぽう 中にある 源は、場の“線”が 袋の内側から始まる ── 始まった線は外へ出ていくしかないから、入る分より出る分が多くなって、正味が残る。

だから、袋の 大きさ は、正味フラックスを変えない。変えるのは、袋の中に何が入っているか だけ。ラボで輪をぐにゃっと動かしても、源をまたがない限り数字が動かないのは、そのためだよ。

ガウスの法則 ── 名前をつける

ここまでを一つの文にまとめると、もう名前をつけていい。

閉じた面を貫く場の正味フラックスは、その中にある源の総量だけで決まる。

これが ガウスの法則 だ。式で書くと、電場なら

EdA=Qε0\oint \vec{E}\cdot d\vec{A} = \frac{Q_{\text{中}}}{\varepsilon_0}

重力場なら

gdA=4πGM\oint \vec{g}\cdot d\vec{A} = -4\pi G\,M_{\text{中}}

読めなくても大丈夫。\oint は「閉じた面ぜんぶで、貫く分を足す」という印(フラックス)。右辺は「中に入っている源の総量」。ε0\varepsilon_04πG4\pi G は、源の量と、それが作るフラックスの大きさを結びつける係数 ── どれだけの源が、どれだけの貫きに化けるかを決めている。今日の主役じゃないので、ここでは脇に置いていい。主役はただ一つ、「囲った中の源だけが、正味の出入りを決める」 という構造だ。

符号のことも、軽くそろえておく。電場なら、正電荷は湧き出し(線が湧き出る)、負電荷は吸い込み(線が吸い込まれる)。重力なら、ふつうの質量は 吸い込み として見える ── だから重力の式にはマイナスが付く(質量は“湧き出し”でなく“吸い込み口”)。符号の出方は違っても、「閉じた面の正味の出入りは、中の源で決まる」という骨は、まったく同じだよ。

小さな箱で見る ── 発散

ガウスの法則は、大きな袋で囲えば「中の源の合計」を教えてくれる。じゃあ、袋を どんどん小さくして、ある一点のまわりだけを囲ったら?

そのときフラックスが教えるのは、「この場所で、場が湧いているか・吸い込まれているか」だ。これを 発散(divergence) と呼ぶ。発散は、ベクトル場の難しい数式…の前に、まず その場の湧き出しを測る道具 だと思ってほしい。

ラボで輪をぎゅっと小さくして、源の上と、何もない所に置いてみて。源の上では正味フラックスが残り、空っぽの所ではゼロになる ── それが、その場の発散を測っている、ということ。

道具の手触りが掴めたら、中身も覗いておこう。2次元の場 F=(Fx,Fy)\vec{F}=(F_x,F_y) なら、発散は

F=Fxx+Fyy\nabla\cdot\vec{F} = \frac{\partial F_x}{\partial x} + \frac{\partial F_y}{\partial y}

と書く。これも、読めなくても大丈夫。これは、小さな箱の「右から出る量 − 左から入る量」と「上から出る量 − 下から入る量」を足して、箱の大きさで割ったもの ── つまり「この一点で、正味どれだけ湧き出しているか」だ。記号 \nabla\cdot は、その“湧き出し”に貼ったラベルにすぎない。

小さな箱 右に出る 左から入る 上に出る 下から入る この一点の「湧き出し」
発散=小さな箱で、出ていく量から入ってくる量を引いたもの。出るほうが多ければ「ここで湧いている」(発散>0)。箱を点まで縮めた、その場の湧き出しが ∇·F。

大きな袋か、小さな箱か ── 同じ法則の二つの顔

ここまでで、ガウスの法則に二つの顔が出てきた。

ひとつは、大きな袋で見る顔(積分形)。閉じた面ぜんぶで貫きを足すと、中の源の合計が分かる:EdA=Q/ε0\displaystyle\oint \vec{E}\cdot d\vec{A} = Q_{\text{中}}/\varepsilon_0

もうひとつは、小さな箱で見る顔(微分形)。その一点の湧き出し(発散)が、その場所の源の濃さに等しい:

E=ρε0\nabla\cdot\vec{E} = \frac{\rho}{\varepsilon_0}

ρ\rho は源の密度=その場所にどれだけ源が詰まっているか。)

大事なのは、これは数学の変形テクニックじゃない、ということ。同じひとつの法則を、大きな袋で見るか、小さな箱で見るか ── ただそれだけの違いだ。大きな袋の正味フラックスは、中の小さな箱ひとつひとつの湧き出しを、ぜんぶ足し集めたものに等しい。当たり前だよね(中の湧き出しの合計が、外への出方を決めている)。この「外の囲いの総和 = 中の湧き出しの総和」という当たり前を、きちんと書いたものが、積分形と微分形の橋になっている。

大きな袋(積分形) 外のフラックスを合計 小さな箱の集まり(微分形) 中の湧き出しを合計
外の囲いを貫く総量(積分形・ガウス)は、中を細かい箱に分けたときの、ひとつひとつの湧き出し(微分形・発散)を、ぜんぶ足し集めたものに等しい。大きく見るか、小さく見るか、の違いだけ。

ポテンシャルへ、つなぐ

最後に、前回と今回を一本の線でつないでおく。

前回、場はポテンシャルの だった ── E=ϕ\vec{E} = -\nabla\phi(場 = 地形の下り坂)。 今回、場の 湧き出し は、その場の源で決まる ── E=ρ/ε0\nabla\cdot\vec{E} = \rho/\varepsilon_0

この二つを重ねると、どうなるか。── 坂 そのもの を見るのではなく、その坂が、その場所でどれだけ湧き出しているか を見ることになる。坂の湧き出しを測ると、その場の源の濃さが出てくる。そして、その「坂の湧き出し」をひとまとめにした記号が、次回の主役 2\nabla^2 だ。式で書くと:

(ϕ)=2ϕ=ρε0\nabla\cdot(-\nabla\phi) = -\nabla^2\phi = \frac{\rho}{\varepsilon_0}

2\nabla^2 は、「坂の、さらに坂」── つまり 地形の曲がり具合 だ。式の細部は次回にゆずるけれど、ここで一つだけ持っておきたい。源があると、ポテンシャルの地形がそこで曲がる。 平らな所には源がなく、ぐっと曲がっている所に源がいる。④で回した3Dの地形を思い出すと、丘や井戸の“曲がり”が、ちょうど源の居場所だった ── あれだ。

次回予告

次回は、この「源 = 地形の曲がり」を正面から見る。

2ϕ=()\nabla^2\phi = -(\text{源})

場の湧き出し(E\nabla\cdot\vec{E})と、ポテンシャルの曲がり(2ϕ\nabla^2\phi)がつながると、この一本の式になる ── ポアソン方程式。源を入れると、ポテンシャルがどう曲がるかを決める式だ。

そしてその先で、いよいよ ── 「一点の源への、たった一発の返事」を使って、この方程式を解く道具が出てくる。④でずっと足し続けてきた、あの 1/r1/r の返事。それに名前がつく。