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2次元の波 ── 波紋・干渉・ホイヘンス

2026.06.14

水面に石を落とすと、丸い波が広がる。点源の応答・干渉・ホイヘンスの原理を、触れる2次元の波で掴む。ビームフォーミングやゾーンプレートにも触れながら、最後に「消えた波はどこへ行ったのか」を問う。

▶ 2次元の波(波紋・干渉・ホイヘンス)を全画面で開く

これまで 波を1次元(弦や管)で見てきた。今度は、水面のように2次元へ広げる。

ここから先しばらくは、「波・場・力」を底で貫く2つの素朴な動きを、見える物理で手に馴染ませていくつもりだ ── ひとつは 足し合わせる(重ね合わせ)、もうひとつは 湧きも消えもしない(保存)。今日はその一歩目、足し合わせ の側を掴む。

点源の波紋 ── 一発叩いたときの返事

静かな水面に、石をひとつ落とす。すると、落ちた点を中心に、丸い波が等速で広がっていく。

このとき大事なのは、水そのものが波紋と一緒に外へ流れていくわけではない こと。各点の水は、おおむねその場の近くで揺れているだけだ。本物の水面波では、水の粒は上下だけでなく前後にも少し動く(その場で小さく輪を描くように動く)けれど、それでも遠くへ流れ去るわけじゃない。ここで大事なのは、物質そのものではなく、山と谷のパターン(位相)のほうが伝わる、ということ。1次元のときと同じで、伝わるのは形であって、もの自体じゃないんだ。

この「点をひとつ叩いたときの、丸く広がる返事」を、しっかり覚えておいて。あとで効いてくる、いちばん基本の部品なんだ。下の遊び場の最初の状態がそれだよ。

干渉 ── 波の足し算が、目に見える

波源を 2つ にしてみよう(上の「2つ(干渉)」を押す)。2つの丸い波が重なる場所では、ただ 足し算 が起きる。山と山が重なれば倍の山に、谷と谷なら倍の谷に(強め合い)。でも山と谷がぶつかると、打ち消し合って水面は静かになる(消し合い)。この縞模様が 干渉 だ。

式で見るとすっきりする。2つの波源からの距離を r1,r2r_1, r_2 とすると、重なった波は

cos(kr1ωt)+cos(kr2ωt)=2cos ⁣k(r1r2)2場所で決まる強さ  cos ⁣(kr1+r22ωt)\cos(kr_1-\omega t) + \cos(kr_2-\omega t) = \underbrace{2\cos\!\frac{k(r_1-r_2)}{2}}_{\text{場所で決まる強さ}}\;\cos\!\Big(k\tfrac{r_1+r_2}{2}-\omega t\Big)

読めなくても大丈夫 ── この式が言っているのは、2つの波の足し算が 「場所で決まる強さ」×「進む波」 にきれいに分かれる、ということだけだ。前半の 2cosk(r1r2)22\cos\frac{k(r_1-r_2)}{2} が、その場所の縞の濃さを決める係数。鍵は 2つの波源からの道のりの差 Δ=r1r2\Delta = r_1 - r_2 だけ。

Δ = nλ(道のり差がちょうど波長ぶん)→ 強め合い 和(黒)=倍 Δ = (n+½)λ(半波長ぶん多い)→ 消し合い 和(黒)=平ら(0)
波1(緑)と波2(橙)の届くタイミングのずれ=道のり差 Δ。ぴったり重なれば和(黒)は倍に、半分ずれれば和は消える。

だから縞は、2つの波源からの距離の差が一定の線(双曲線)に並ぶ。波長 λ\lambda や波源の間隔 dd を変えると縞が動くのを、遊び場で確かめてみて。「波の足し算」そのものが、模様として見えている んだ。

身のまわりにもある。2つのスピーカーから同じ音を流すと、部屋の中に「よく聞こえる場所」と「妙に小さい場所」が縞状にできる。光でやれば、二重スリットを通した光がスクリーンに明暗の縞を描く ── 光が波だという、いちばん有名な証拠だ。水でも音でも光でも、起きているのは同じ「道のり差ぶんだけずれた波の足し算」だよ。

ホイヘンス ── 波面は、無数の点源の足し算

もうひとつ「足し算」が効く。波源を 横一列に並べる(「ホイヘンス」を押す)。すると、たくさんの丸い波が足し合わさって、右へ進む まっすぐな平面波 が立ち上がる。端の方には丸みが残るけれど、真ん中は見事に平らだ。

これが ホイヘンスの原理:いまある波面の各点を「小さな丸い波(素元波)を出す点源」とみなすと、その無数の素元波の 足し算(包絡線) が、次の瞬間の波面になる。波がまっすぐ進むのも、隙間で回り込む(回折する)のも、角で曲がる(屈折する)のも、ぜんぶ「点源の波紋を足すと、こうなる」で説明できる。

たとえば、波が 障害物の陰に回り込む回折)のもこれで分かる。狭い隙間を波が通ると、向こう側で扇形に広がる ── 隙間の中の各点が点源になって、丸い波を撒くからだ。隙間が波長に比べて狭いほど、源の数が足りずに“まっすぐ”を保てなくて、ぐっと広がる。逆に隙間が広いと、たくさんの点源が揃ってまっすぐ進む。同じ「点源の足し算」ひとつで、直進も回り込みも、両方ちゃんと出てくる。

点源の応答さえ分かれば、それを並べて足すだけで、複雑な波の振る舞いが全部出てくる ── この「一発の返事を、たくさん足す」が、これから何度も顔を出す主役だよ。

その「並べて足す」に、つまみをひとつ足すと、いきなり実用になる。各点源の タイミング(位相)を少しずつずらす んだ。すると、足し合わさってできる平面波が 斜めに傾く。源を機械的に動かさなくても、位相だけで波の向き(ビーム)を自在に振れる。これが ビームフォーミング(フェーズドアレイ)── レーダーや 5G の基地局アンテナ、超音波エコーが、まさにこれで“首を振らずに”狙いを定めている。並んだ点源の干渉が、そのまま向きを操る道具になるんだ。素子の間隔と位相差を動かして、主ビームが首を振るのを下で触ってみて。

▶ 波の干渉とビームフォーミングを触る ↗

ゾーンプレートと、湧いてくる“嘘の波”

同心円つながりで、もう少しだけ寄り道したい。波そのものから少し目をずらして、「見ること」のほうの話をしておきたいんだ ── その入口が ゾーンプレート。中身は sin(αr2)\sin(\alpha r^2) ── 半径の 2乗 に比例して位相が回るので、外へ行くほど縞が細かくなる「2次元のチャープ(うなり)」だ。

この模様には、面白くて少し怖い性質がある。粗く見る(粗くサンプリングする)と、本物には無いニセの渦・モアレがブワッと湧く。これが エイリアシング。細かすぎる縞を、それより粗い目盛りで拾おうとすると、拾い損ねた分が「実在しない、もっと大きな波」に化けて見えてしまう(ナイキストの限界を超えた、という)。

ここには、この連載の隠れたテーマがひとつ顔を出している ── 「見ること」そのものが、無いものを作り出すことがある。だから可視化は、いつも「これは本物か、見方が生んだ幻か」を疑う必要がある。ゾーンプレートは、その良心を試す最高のテストパターンなんだ。点サンプリング(ただ拾う)と面積平均(ならして拾う=アンチエイリアス)の違いまで、別ページで触れるよ。

▶ ゾーンプレートでエイリアシングを見る ↗

波の話をしていたはずが、いつの間にか「見ること」の話になっていた。でも、これは脱線しきってはいない。波は足され、目はそれを標本化する ── どちらも、世界をそのまま受け取るのではなく、ある規則で組み直している。そこは、奥のほうで繋がっている。

さて、波そのものに戻ろう。今日ずっと見ていたのは、結局 点源の返事を、たくさん足す ということだった。その『足す』こそ、これからの主役だ。

消えた波は、どこへ行ったのか

さっきの干渉に、ひとつ引っかかりを残してきた。「消し合い」の線では、水面はぴたりと静かだった。波が、消えた。── そこにあったエネルギーは、どこへ行ったんだろう?

消えてはいない。ここで足されているのは 振幅 で、エネルギーはその 振幅の二乗 に関係する。だから消し合いの線(振幅ゼロ)で“見かけ上”失われたエネルギーは、消えたのではなく、強め合いの線(振幅が倍 → エネルギーは4倍)へ再配分されている だけだ。理想的な損失なしの媒質で全体をならして数えれば、エネルギーの総量は、波源が出したぶんのまま変わらない。重ね合わせは、振幅を足すことで、エネルギーの 置き場所を組み替えている ── 新しく生みも、消しもしない。

これは、当たり前のようでいて、物理のいちばん深い骨の一つ ── 「湧きも消えもしない量がある」=保存 への、静かな伏線だ。ただ、その骨に進む前に、もう一段ある。次は、今日の『点源の返事を並べて足す』を一般化して、インパルス応答・畳み込み・フーリエ へ。一発の返事さえ分かれば何でも組み立てられる、という手を掴む。「で、エネルギーは?」の問いには、そのあと戻ってくるよ。